彼女がその名を知らない鳥たちの紹介:2017年日本映画。沼田まほかる原作の同名小説「彼女がその名を知らない鳥たち」を映画化した衝撃のミステリーサスペンス作品です。何の取り柄もない下品な男と同棲しながらも既婚者との不倫に走る女。失踪した元恋人を巡って女の衝撃の過去が明らかになります。第41回日本アカデミー賞で、主演の蒼井優は本作「彼女がその名を知らない鳥たち」で最優秀主演女優賞を受賞した。
監督:白石和彌 出演者:蒼井優(北原十和子)、阿部サダヲ(佐野陣治)、松坂桃李(水島真)、村川絵梨(國枝カヨ)、竹野内豊(黒崎俊一)ほか
映画「彼女がその名を知らない鳥たち」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「彼女がその名を知らない鳥たち」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
彼女がその名を知らない鳥たちの予告編 動画
映画「彼女がその名を知らない鳥たち」解説
この解説記事には映画「彼女がその名を知らない鳥たち」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
「彼女がその名を知らない鳥たち」のネタバレあらすじ:起
何の生き甲斐もなく、自堕落な日々を送る北原十和子(蒼井優)。彼女は、建設現場で働く佐野陣治(阿部サダヲ)と同棲しています。
陣治は十和子一途で優しい男ですが、何の取り柄もなく不潔で男らしくない面があり、そこが十和子は気に入りません。しかし、ろくに働きもしない十和子は、生活費と家事の全てを彼に頼っており、別れられずにいました。
8年前に別れた元恋人の黒崎俊一(竹野内豊)との楽しかった日々が、忘れられずにいる十和子。ある日、十和子は姉・美鈴(赤澤ムック)に呼び出されました。彼女は子供と夫との幸せな家庭を築いています。十和子のことを心配している美鈴は、陣治とうまくいっているかと尋ねます。「陣治とはそんな仲ではない…」と言う十和子に、「黒崎さんとのことをまだ引きずっているの?」と驚く美鈴。黒崎から顔や肋骨を折るくらいひどい暴力を受けたこともあり、美鈴は十和子のことが心配になります。
しかし黒崎からもらったとずっと自慢していたダイヤのピアスを十和子がしていないのを見て、少しホッとする美鈴。一方の十和子は、すっかりダイヤのピアスのことを忘れており、家に帰って探し回ります。するとなぜかアクセサリーが入っている場所にはなく、小銭をためている瓶に入っており、首を傾げる十和子。
そんな時、お気に入りの腕時計が故障したのでデパートに修理を依頼していた十和子。しかし既に生産終了品であり、修理はできないとの知らせを受けます。そこでデパートに対して執拗にクレームを入れていた十和子の元に、担当社員の水島真(松坂桃李)から電話がかかってきました。
「家までお詫びの品を持って伺いたい。」と言う水島に、「思い出の品で、代わりのきかない時計なんです!」と、怒って電話を切る十和子。その後デパートを訪れた十和子は、水島の容姿を気に入り、家を片付けて彼を家に招き入れることにしました。
「彼女がその名を知らない鳥たち」のネタバレあらすじ:承
時計は修理ができないので、代わりに新しい時計を持ってきた水島。しかしその中に気に入ったものはなく、「誠意が感じられない!」と十和子は怒って泣き出します。すると十和子の頬をそっと触り、不意打ちの口づけを交わす水島。「来週の同じ曜日にまた来ます。それまでに考えておいてください…」と言って帰っていきました。
そして後日、十和子はデパートで勤務する水島に会いに行きます。水島は自腹で買った時計を十和子にプレゼントし、そのまま二人はホテルで結ばれました。ベットで語り合う二人。十和子は水島が既婚者と知りますが、その後も二人は体を重ねて不倫関係を続けます。
その夜、遅くに帰ってきた十和子のことが心配で、陣治は美鈴に連絡を入れていました。翌日、美鈴が家にやって来て「黒崎さんとまた会っているの?」と再び尋ねました。陣治に頼り切った生活を続ける十和子を叱る美鈴。ふと黒崎の事を思い出した十和子は、彼の携帯の番号に電話をかけます。しかしすぐに電話を切る十和子。
「彼女がその名を知らない鳥たち」のネタバレあらすじ:転
数日後、十和子の元に刑事の酒田(赤堀雅秋)が訪れます。「黒崎の携帯に、電話をかけませんでしたか?」と尋ねる刑事。十和子と別れた黒崎にはすでに妻がいました。しかし5年前に急に失踪していた黒崎。そのことを知った十和子は驚きます。
黒崎が失踪したと知った十和子は、その日、水島とホテルへ行きました。そしてタクシーで帰る途中、陣治が自分のことを尾行していたことを知ります。怖くなった十和子は美鈴の家に泊まることにしました。
十和子は黒崎の妻・カヨが暮らすマンションを尋ねました。カヨは黒崎との間にできた娘と伯父の國枝(中嶋しゅう)と暮らしています。カヨは、「きっと夫は殺されていると思う…」話します。
5年前に失踪した日、黒崎の車が斜めに乗り捨てられていました。「普段であれば、そんな停め方はしない…」と語るカヨ。すると部屋の奥から國枝が出てきました。「お前のことは覚えている…」と言って、十和子に近づく國枝。「なぜあの日、来なかった?」と聞かれた十和子は混乱し、「言ってることがよくわかりません…」と逃げるようにマンションを飛び出します。
家に帰ると、陣治が風呂場で血のついた服を洗っていました。それを見た十和子は、昔も同じような光景を見たことを思い出します。
翌日、水島から電話を受けた十和子。水島の家のポストに見ず知らずの人物から変な贈り物が届いていたと知らされました。しかも顧客データが盗まれた可能性もあり、もしかすると陣治の仕業ではないかと疑う水島。「しばらくは会えない。」と言われ、ショックを受けた十和子はデパートの前で水島を待ち伏せします。その後、十和子は水島からの時計が安物だったことを知り、自分は遊ばれていたのだとわかりました。
「彼女がその名を知らない鳥たち」の結末
家への帰り道、十和子は自分を心配して迎えに来てくれた陣治と出くわします。水島に変な贈り物をしたのは陣治かと問い詰める十和子。すると陣治はそれをあっさりと認めました。妻とは別れると甘い言葉で十和子を誘いながら、普段は子どもや奥さんと家族との時間を楽しんでいる水島。「今目を覚まさないと、また大変なことになるで!」と、陣治は説得します。
それを聞いた十和子は、「それって黒崎さんのこと言ってるの?」と尋ねます。十和子と付き合い始めた当初、陣治は黒崎についてしつこく質問していました。しかし、5年前ほどから黒崎の名前を出すことがなくなった陣治。黒崎はどこにいるのか十和子が尋ねると、陣治は5年前のことを話し始めました。黒崎を殺し、軽トラにのせて土をかぶせて埋めたと説明する陣治。「何でそんなことをしたん!」と十和子は攻め立て、「あんたが死ねばよかったんや!」と言って泣き出しました。
翌日、十和子は美鈴に電話をかけて「色々なことにケリが付けれそうで、大阪を離れることになると思う…」と告げていました。そして水島に会いに行った十和子。顧客データが盗まれたと水島は大騒ぎしていましたが、それは彼の勘違いだったことがわかります。
水島といるうちに、黒崎との過去を急に思い出した十和子は、持っていたナイフで水島を後ろからめった刺しにします。すると突如陣治が現れて、十和子を全力で止めました。「警察に行って、自分を刺したのは俺だと言え!」と説得する陣治。もしそうしなければ、これまでの不倫現場の写真などをばらまくと脅しました。全身から血を流しながらも水島は逃げ出していき、すると十和子は自ら封印してきた過去の全てを思い出します。
かつて黒崎と付き合っていた十和子ですが、彼は自らの出世のために会社の実力者である國枝に、十和子を貢ぎ物として捧げていました。その後、黒崎は國枝の姪である妻のカヨと結婚します。もはや必要なくなった十和子に別れを切り出したのですが、彼女が別れを拒んだことから、黒崎は壮絶な暴行を加えることとなります。
それからしばらくして、職場に出入りをしていた陣治と出会った十和子。大けがを負った十和子を見て、陣治は一目ぼれをしました。しかし黒崎からひどい仕打ちをうけた十和子は、心を閉ざします。それでも陣治の優しさに触れて、だんだんと笑顔を取り戻す十和子。そして、一緒に暮らし始めた二人ですが、5年前に急に黒崎から十和子に連絡があります。別れる時にひどいことをしたと謝る黒崎。そして「ずっと会いたかった…」と言われて、十和子は素直にうれしく感じます。
しかし黒崎の本当の理由は他にありました。金に困っている黒崎は、再び十和子に國枝と関係を持ってほしいと頼みます。十和子は再び裏切られたことに失望し、黒崎をナイフでメッタ刺しにして殺害。その後、連絡を受けた陣治が黒崎の死体を埋めてたのでした。
全てを思い出した十和子に寄り添い愛を告白する陣治。十和子の醜い過去を全て持っていくと誓います。しかしいつも口ばっかりで、何もできない陣治に何ができるのかと疑う十和子。すると子どもを産んで幸せになるよう告げ、陣治は柵を飛び越えて崖の下へと落下していくのでした。
以上、映画「彼女がその名を知らない鳥たち」のあらすじと結末でした。
「彼女がその名を知らない鳥たち」感想・レビュー
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愛はひとそれぞれ、それが周りに認められなくても、お互いが愛だと感じれればそれだけで十分だと思う。確かにこの映画に出てくる人はみんなクズでした。でも、それぞれ愛情を欲していて、誰かに愛情を注いでいました。松坂桃李の薄っぺらぶり!かっこいいのに中身がなくすかすか。。。でもカッコよかったです(笑)阿部サダヲは蒼井優のことが大好きで大好きで大好きで、本当に命をかけて愛してて、守りたくて、切なくて。最後の決断は蒼井優の人生にとってプラスになったのか、背中を押せたのか…映画では描かれていませんが、新しい一歩を踏み出してほしいと感じました。
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こんな人生歩んでいてお先真っ暗な人たちばかりでめんどくさいなと一言放ってしまうぐらいの衝撃的な内容でした。
もっと深く入り込むと愛は時には人を狂わせ時には人の欲望になってしまうものなんだと思いました。
愛にもさまざまな形があるけれど自分たちが良ければ良いものなのかもしれません。
人を愛すことで例え周りが見えなくなってもその瞬間を後悔するものはいない。
愛とはそういうものなのだと知りました。
人を愛するとはどういうことなのか、人をどれだけ「深く」愛することができるのか。普遍的なテーマではありますが、それを真正面から描ききった佳作でしょう。
「ダメ女を利用するダメ男たち(竹野内豊・松坂桃李)」との対比で描かれる、「ダメ女を愛するダメ男(阿部サダヲ)」というキャスティングの妙味が優れていて、阿部サダヲの気持ち悪さが「純粋な愛情」をここまで純白に仕上げるのかと感心させられます。
良作の共通点とも言えるべきエンディングの素晴らしさを本作も漏れなく満たしていて、阿部サダヲの投身自殺の生々しい残虐性は鑑賞者、主人公の蒼井優には一切見えないように作られており、蒼井優演じる主人公への繊細な配慮をここからも伺うことができます。さらに、阿部サダヲの消えた空間からは、眼下から夥しい数の鳥たちが天に昇っていくシーンですが、絵的美しさは言うまでもなく、「昇天する鳥たちの数の多さ=阿部サダヲが今まで彼女にどれだけの愛情を恵んできたのか」ということを見事に表現し切っているのも素晴らしい。付言するならば、「阿部サダヲがどのような内容の愛情を彼女に与えてきたのか、それは彼女にも理解できないが(彼女がダメ女だから)、それでもいくつもの愛情を受けてきたのだ」という事実を我々にもつきつけることによって、愛情の一方通行性がもつ悲しさを醸し出しつつ、それでも愛のもつ力強さを完璧に表現できているのではないでしょうか。
ラストだけでもこれだけの魅力がある作品です。細部にまで様々な配慮がなされています。まほかるさん原作なのでストーリー性にも十分でしょう。