騙し絵の牙の紹介:2021年日本映画。『罪の声』などを手掛けた小説家・塩田武士が大泉洋を主人公のモデルとして執筆した同名小説を『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督が映画化した作品です。大泉洋自ら主演を務め、雑誌廃刊の危機に立たされた編集長が生き残りを賭けて起死回生の再建策に打って出る様を描きます。
監督:吉田大八 出演者:大泉洋(速水輝)、松岡茉優(高野恵)、宮沢氷魚(矢代聖)、池田エライザ(城島咲)、斎藤工(郡司一)、中村倫也(伊庭惟高)、坪倉由幸(柴崎真二)、和田聰宏(三村洋一)、石橋けい(中西清美)、森優作(安生充)、中野英樹(相沢徳朗)、赤間麻里子(伊庭綾子)、山本學(伊庭喜之助)、佐野史郎(宮藤和生)、リリー・フランキー(神座詠一)、塚本晋也(高野民生)、國村隼(二階堂大作)、木村佳乃(江波百合子)、小林聡美(久谷ありさ)、佐藤浩市(東松龍司)ほか
映画「騙し絵の牙」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「騙し絵の牙」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
騙し絵の牙の予告編 動画
映画「騙し絵の牙」解説
この解説記事には映画「騙し絵の牙」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
騙し絵の牙のネタバレあらすじ:起
大手出版社・薫風社の社長・伊庭喜之助(山本學)が犬の散歩中に倒れ、そのまま急死しました。薫風社の文芸誌「小説薫風」の新人編集者・高野恵(松岡茉優)は新人賞応募作の中から新人作家・矢代聖(宮沢氷魚)の「バイバイを言うとちょっと死ぬ」をチェックしていたところで伊庭の訃報を知りました。
テレビでは早くも薫風社の次期社長は誰かを占う特集が組まれていました。ゲスト出演した文芸評論家の久谷ありさ(小林聡美)は、次期社長候補は伊庭の息子・惟高(中村倫也)でも、後妻・綾子(赤間麻里子)でもなく、専務の東松龍司(佐藤浩市)が最有力だとの見方を示しました。実は惟高はニューヨークへの異動が決定していたのです。
伊庭の通夜には東松や常務・宮藤和生(佐野史郎)など多くの会社関係者が訪れました。通夜が終わった後、高野は「小説薫風」編集長の江波百合子(木村佳乃)やその側近である三村洋一(和田聰宏)と共に大物小説家・二階堂大作(國村隼)の作家生活40周年記念パーティーに向かおうとしました。しかし、あいにくタクシーがつかまらなかったことから、一行は同じ薫風社のカルチャー誌「トリニティ」の編集長・速水輝(大泉洋)の乗ったタクシーに仕方なく相乗りすることにしました。
江波と高野らは二階堂に挨拶しましたが、そこに速水が割って入ってきました。速水は相手が大御所であろうとも歯に衣着せぬ物言いを展開し、高野に二階堂の代表作「射程」の率直な感想を求めてきました。高野は戸惑いながらも素直に価値観が古いと述べ、二階堂の機嫌を損ねてしまいました。
翌朝、明らかに機嫌の悪い江波は、速水に二度と二階堂に近付くなと命じました。その後、速水は東松から二階堂が怒っていたことを聞かされ、近年売上が落ちている「トリニティ」の廃刊を仄めかされました。速水は今は発行部数を増やすための仕込みの最中だと反論、「トリニティ」編集部会議を召集しました。
副編集長の柴崎真二(坪倉由幸)、ベテラン編集者の中西清美(石橋けい)、若手編集者の安生充(森勇作)などが次々と特集のアイデアを提示するも、それらは「旅行」「グルメ」「エンタメ」などいずれも使い古されたネタばかりでした。
速水は「トリニティ」の売上が落ちているのは雑誌構成のマンネリ化にあると指摘、新企画として連載企画の立ち上げを提案しました。しかし、編集部の面々は「小説薫風」とネタが被ることを理由に消極的でした。
その頃、「小説薫風」編集部では新人賞の選考会議が行われていました。高野は矢代の作品を推薦しましたが、江波は実力を認めながらも「個性が強すぎる」として却下しました。
騙し絵の牙のネタバレあらすじ:承
薫風社では役員会議が開かれ、東松が新社長に就任しました。東松は改革の一手として、不採算部門の整理と独自の物流ルート構築を目的とする「プロジェクトKIBA」の立ち上げを提案しました。「プロジェクトKIBA」には伊庭の後妻である綾子や、東松の腹心である経営企画部長の相沢徳朗(中野英樹)、そして大手外資系ファンドの日本支社代表・郡司一(斎藤工)らが参画していました。
東松は手始めに、赤字が続く「小説薫風」を月刊から隔月刊に変更しました。二階堂はテレビを通じて隔月刊化は小説家の活躍の場を減らすものだと非難、かねてから東松に反感を抱いていた宮藤も反対しました。
高野は人員削減の一環として販売管理部への異動を命じられました。途方に暮れる高野は父・民生(塚本晋也)が営む小さな本屋・高野書店を手伝っていると、そこに速水が現れ、人手不足だから「トリニティ」編集部に来ないかと誘ってきました。
高野を「トリニティ」に引き入れた速水は、現在「小説薫風」が独占契約を組んでいる二階堂の新連載を「トリニティ」でも始めると提案しました。速水と共に二階堂との交渉の席に着くことになった高野でしたが、速水から「遅れる」とのメールが届きました。高野は速水が来ないまま先に来た二階堂の応対をすることになり、東松が来ていないことに憤慨する二階堂に先日のパーティーでの無礼を詫びました。
二階堂は高野の謝罪に免じて交渉の席に着くことにし、二人で高級ワインを嗜みました。高野は酔った勢いで謝罪は断片的にしか意見できなかったことに対してのものであり、改めて今時の読者のニーズに応えるべきだと主張しました。
そこに速水が現れて二階堂にワインを注ぎ、二階堂は旨いと飲みましたが、それはただの安物でした。速水は二階堂に頼ってばかりの「小説薫風」はもはや落ち目だと主張、二階堂に対してある提案をしました。二階堂は目からウロコのように驚き、速水の提案に乗っかることにしました。帰り際、速水は泥酔した高野をタクシーに乗せた際、彼女が誤ってカバンから落とした矢代の原稿を拾い上げました。
速水と二階堂は記者会見を開き、「トリニティ」の新連載として二階堂の代表作「忍びの本懐」のコミック版である「沈む月、金糸雀の夢」を開始すると発表しました。続いて速水は、目玉はいくらあっても良いとして、矢代の「バイバイと言うとちょっと死ぬ」を連載すると提案しました。
速水は先日拾った矢代の原稿を見てその才能に目をつけ、「小説薫風」がボツにしたのだから「トリニティ」で引き継ごうと考えたのです。高野は早速矢代に連絡を入れようとしましたが、矢代は音信不通となってしまっていました。
速水が続いて目をつけたのは、様々な人気雑誌の表紙を飾る人気モデル・城島咲(池田エライザ)でした。城島の元を訪れた速水は、彼女が銃マニアであることを知り、自身が好きなサバイバルゲームの話を振って意気投合することに成功しました。速水はふと“城島咲”という名が本名なのか訊いてみました。城島はここ最近SNSでネットストーカーに付きまとわれていました。
速水は城島が“ジョージ真崎”の名義で同人誌に小説「花と硝煙」を書いていたことを知り、「トリニティ」で連載を持ってみないかと巧みな話術でオファーをかけました。今のところ順風満帆にいっている速水でしたが、二階堂を速水に獲られたことに不満を持つ宮藤は、速水に「東松は壊し屋だ」と忠告しました。
一方の高野は仕事の合間を縫って高野書店の手伝いをしていました。そんな時、客の女子高生が“幻の作家”神座詠一(リリー・フランキー)の本を置いていないか尋ねてきました。このことがきっかけで神座に興味を持った高野は、久谷に神座の居場所を尋ねるも、誰も彼がどこにいるのか知らないと返されました。
神座は20年ほど前に薫風社からベストセラー小説「おかえり、クリスタ・マコーリフ」を出版したのを最後に世間から姿を消していました。神座は元々“エンピツ”(業界用語で、編集者や校正者によるゲラ原稿への指摘や修正箇所の書き込みを意味する)を嫌っており、「おかえり、クリスタ・マコーリフ」は自ら改稿作業を行なっていたのですが、あまりの完成の遅さに痺れを切らした薫風社は、神座の断りもなしに出版を強行、小説は大ヒットしたのですが、それ以降神座は消息を絶ったのです。
神座の作品はテレビドラマ化も映画化もされておらず、作品に触れられるのは本しかありませんでした。ますます神座に興味を募らせた高野は、社内の資料室に保管されていた「おかえり、クリスタ・マコーリフ」の原稿をコピーして持ち帰り、熱心に目を通しました。そして高野はあることに気付き、とある飛行場に向かいました。
高野は神座がこの飛行場で小型機のライセンスを取得したのだと睨んでおり、軽飛行機に乗り込もうとしている男こそが神座だと確信して声をかけようとしましたが、男はそのまま飛び立ってしまいました。高野は「おかえり、クリスタ・マコーリフ」の登場人物がセスナ機を操縦する様があまりにもリアルであり、風景の描写やライセンスを取れる飛行場などを調べ上げたのです。
高野から話を聞いた速水はその洞察力に感心しました。高野は速水に、自分が子供の頃に実家の書店に漫画が入荷するという噂が立ち、沢山の人々が行列を作ったという思い出話をしました。
城島の獲得にも成功した速水は、編集者たちに自分たちが一緒に仕事をしたい著名人にも連載のオファーをするよう指示しました。編集者たちは女装の格闘家、全盲の作曲家のゴーストライターなど様々な人物にオファーを出していきました。
騙し絵の牙のネタバレあらすじ:転
そんな時、「トリニティ」は遂に矢代と連絡を取ることに成功しました。編集部を訪れた矢代はそのイケメンぶりから瞬く間に社内の話題をかっさらっていきました。速水は久谷に協力を頼み、久谷が司会を務めるトーク番組に矢代と城島を出演させ、更には週刊誌を焚きつけて矢代と城島の恋愛スキャンダルをでっち上げたりと、二人の知名度アップのための工作を仕掛けていきました。
ところがそんなある日、速水らの運命を大きく揺るがす事件が発生しました。帰宅した城島はかねてからつきまとっていたネットストーカーに襲われ、3Dプリンターで自作した拳銃を発砲しました。城島は銃刀法違反で逮捕されました。
事件を重く見た「トリニティ」編集部は城島の連載打ち切りを検討しましたが、速水は東松や重役たちに掛け合い、事件と表現は関係がなく、優れた才能をスキャンダルで潰してはならないと提言しました。その上で速水は、城島にはストーカー被害の同情票が見込めると考え、東松たちを丸め込むことに成功しました。
こうして速水は城島の連載を差し替えることなくそのまま掲載した「トリニティ」リニューアル新装刊号の発行を強行しました。速水の狙いは見事に的中、新装刊号は好調な売れ行きを見せ、重版も決定しました。
宮藤はスキャンダルをも利用する速水の快進撃を苦々しく思っていました。そんな矢先、高野は民生から来月で高野書店を畳むと告げられました。その直後に民生が倒れ、病院に搬送されて緊急手術を受けました。
矢代は本業の小説家としての活動よりも「トリニティ」の広告塔的な活動が優先されていることに不満を抱え始めていました。宮藤はかねてから速水を快く思っていなかった柴崎を通じて矢代に接触、矢代を「小説薫風」に引き抜くことに成功しました。
宮藤は記者会見を開き、「トリニティ」が矢代の原稿を横取りしたこと、そして「バイバイを言うとちょっと死ぬ」は「小説薫風」で連載することを発表しました。ところが、会見に同席していた矢代は「この小説を書いたのは僕じゃない」と衝撃の告白をしました。矢代は「バイバイを言うとちょっと死ぬ」は失踪した友人が書いたものであり、自分は友人に代わって応募したこと、宮藤が芥川賞を取らせてやるというのでその気になってしまったことまで白状してしまいました。
会場が騒然とするなか、矢代はその場を立ち去りました。宮藤にはマスコミが殺到し、宮藤は記者の一人が発した「薫風社も落ちたもんだな」との一言に激しい怒りを露わにしました。
矢代の後を追った高野は、矢代が速水と行動を共にしているのを目の当たりにしました。速水は矢代と高野を連れて、とあるホテルの一室に向かいました。そこにいたのは何と20年前に失踪した神座本人でした。実は「バイバイを言うとちょっと死ぬ」を執筆したのは神座であり、これが20年ぶりに書いた小説なので世間の反応を見るために“矢代聖”の偽名を使って発表してみたのです。
「バイバイを言うとちょっと死ぬ」の原稿を見た速水は咄嗟にこれが神座のペンによるものであることを見抜き、売れない役者を“矢代聖”に仕立てて大々的なPRに打って出たのです。すっかり騙された高野は「人を騙すのがそんなの面白いのか!」と怒りを露わにしましたが、速水は「面白い」とあっけらかんに答えました。
赤っ恥をかかされた宮藤は退職に追い込まれ、「小説薫風」は廃刊が決定しました。目障りだった宮藤がいなくなったことにより、東松は本格的に「プロジェクトKIBA」を始動させる決意を固めました。東松は訪ねてきた速水に「トリニティ」は1年以内に廃刊にし、速水は「KIBA」担当の要職に就けること、そして「KIBA」は先代社長が5年前から温めてきた構想を自分が受け継いだことを語りました。
そこにアメリカから戻ってきた惟高が現れました。惟高は「プロジェクトKIBA」は時代遅れだと言い放ち、東松に社長の座を明け渡すよう要求しました。惟高は父や東松がこれまで推し進めてきた、出版社が広告に依存する体質はもう古いと切り捨て、自らアメリカでAmazonとの提携交渉を成立させ、これからは薫風社のコンテンツを読者に直接届ける考えを示しました。
実は速水は東松に従うフリをして、裏で惟高と手を組んでいました。惟高は以前速水が編集長だった音楽雑誌のファンだったのです。速水と惟高は旧態依然の薫風社を改革すべく、まず東松の権力を利用して保守派の宮藤を排除し、続いて東松をも追い落とすことで、社内から旧体制派を完全に一掃したうえで惟高を中心とする新しい薫風社を創り上げることを目的としていたのです。
社長辞任を拒む東松は「無理だ」と言いましたが、速水は「無理だからこそ面白い」と言ってのけました。速水から「お疲れ様でした」と声をかけられた東松は「結局、走らされていたのは自分だった」と悔やみました。東松は「KIBA」のことを「K(言葉)・I(イメージ)・BA(場)」だと思い込んでいましたが、実は先代社長の伊庭喜之助(いば・きのすけ)のイニシャル「K.IBA」から名づけられたのです。
騙し絵の牙の結末
「小説薫風」の編集部は撤収が始められ、江波は編集長を辞任して総務部預かりとなることが決定しました。江波は顔を出した高野に肩の荷が降りたと伝え、高野が良い本を作って売るのが楽しみだとエールを送りました。
デジタル化に舵を切った薫風社は「トリニティ」の存続を決定、速水は「トリニティ」をAmazonでWeb媒体として販売する方針を固めましたが、編集者たちはデジタル化は人員削減ではないかと反発しました。
12月23日。速水は約20年ぶりに文壇への復帰を決意した神座の新連載を高野に担当してもらうことにしました。速水は「トリニティ」の仕事が一段落したら、新たな面白いことを始めるために「トリニティ」を離れる考えを示しました。ところが、高野は会社に退職届を残し、ひっそりと薫風社から姿を消していました…。
…7ヶ月後。高野は民生から高野書店を受け継ぎ、「この書店でしか手に入らない物を売る、出版する本屋」としてリニューアルオープンさせていました。高野はこれまでの既存の出版社の旧態依然とした権力闘争や利権とは無縁の、本当に良いものだけを読者に届けるための活動を始めており、すっかり体調の回復した民生や薫風社を辞めた江波も高野に協力することにしたのです。
実は高野が薫風社を辞めた2日後の12月25日、高野はあの飛行場で神座と密かに会っていました。神座は高野から構想を聞かされると、「バイバイと言うとちょっと死ぬ」は速水には悪いけどしばらく寝かすことにしたと語り、代わりに高野が提案した企画に乗っかることにしたのでした。
高野書店には神座の最新作「非Aの牙」が売り出されていました。価格は3万5千円という強気の設定でしたが、それでも神座の新作を求める人々が長蛇の列を成していました。まんまと高野に出し抜かれたことを知った速水は、やり場のない悔しさと激しい憤りを露わにしました。
速水は城島が服役している刑務所を訪れ、面会室で城島に、獄中で新作の小説を書いてほしいと依頼しました。速水は小説を映像化すると約束しましたが、城島は「何も書くことはない」と断りました。それでも速水は「君は書くことが生きること。僕は書かせるしかない人間だから」と食い下がり、「それ、本当に面白いですか?」との城島の問いかけに対して「多分、滅茶苦茶面白いです」と答えました。
以上、映画「騙し絵の牙」のあらすじと結末でした。
一度観て?となって、もう一度観ました
ラストに向かっていくにつれて、トリニティは廃刊になってしまうし、なんだか速水さんの行動があなどすぎて、置いてかれた感で終わってしまった
ラストをもう少し映画的(ほぼハピエン)で終わってほしかったかな